イーサリアムの応用:MEV編
Big thanks for askyv, ek, 0xsolidq to discuss and feedback!
この記事ではブロックビルダーの一元化という問題にフォーカスを当て、その問題や解決策をまとめる。より多くの人がブロックビルダー一元化に目を向け、議論や開発をより促進することが目的である。
*注:MEVの基礎と現状を学ぶためにまずは以下を読むことをお勧めする。
MEV: Maximal Extractable Value Pt. 1 https://www.galaxy.com/research/whitepapers/mev-how-flashboys-became-flashbots/
MEV: Maximal Extractable Value Pt. 2 https://www.galaxy.com/research/whitepapers/mev-the-rise-of-the-builders/
Builder Market: Now and the Future https://mirror.xyz/hismrti.eth/qU4f9dAROTaARf_VQaaVXD3xxDwKO1-BgDwGXJs6sqM
0. ブロックビルダー誕生の背景
PoW Ethereumのマイナーはフルブロックを構築する権限を持っており、短い時間でブロックのシミュレーションを行うことでブロック報酬を最大化する必要があった。
このプロセスには高いリソース要件が求められるため、個人よりもマイニングプール及び事業者に有利となり、個人がブロック構築プロセスに参加するハードルが高く、ブロック構築者が一部の資本を持つマイニングプール及び事業者へと集中化する懸念がされた。
The MargeによるPoWからPoSにコンセンサスアルゴリズムの変更により、フルブロックの構築に資本力(ステークするETHの量)が直接関係するようになりより集中化が促進する懸念が強まった。
これに対してEthereumは”マイナーとブロック構築者の権限分離”を目指しており、これをプロポーザー・ビルダー・セパレーション(Enshrined PBS = ePBS)と呼ぶ。このPBSによって生まれたブロック構築を専門とする業者をブロックビルダーと呼ぶ。
しかし、このPBSをプロトコル内で実装することは技術的に困難であり、2~8年ほど掛かると言われている。その代替案としてMEV-boostと呼ばれるソフトウェアをFlashbotsが提供している。
このソフトウェアにより、バリデーターはフルブロック構築を第三者の”ブロックビルダー”に委任できるようになり、高いリソース要件を持たない洗練されていないプロポーザーでも価値の高いフルブロックを(委任することにより)構築できるようになった。
このように数年は実装できないPBSをMEV-boostにより擬似実装した結果として、ステーキングプール及び事業者への中央集権化の緩和に成功した。
しかし、依然としてブロック構築者が集中化する問題は解消されておらず、この問題は単にバリデーターからブロックビルダーに移行しただけである。
これがブロックビルダー誕生における背景である。
1. ブロックビルダーの一元化とは
ブロックビルダーがアクセスできる取引の経済機会には”ばらつき”が存在する。一部の業者のみがアクセスできる排他的な取引で競い合う市場では勝者総取りの効力が働くため、小・中規模の業者が淘汰されてしまい一部の優れた業者しか生存できなくなってしまう。
このようにブロックビルダーが一部の洗練された業者に集中することをブロックビルダーの一元化と呼び、一元化による負の外部性が危惧されている。
https://mirror.xyz/hismrti.eth/qU4f9dAROTaARf_VQaaVXD3xxDwKO1-BgDwGXJs6sqM
現状ブロックビルダー市場は上位4社のビルダーが88%を握っている。
上位4社のビルダーはその競争優位性から恣意的なルールを課せる可能性があり、ブロック構築プロセスが閉鎖的になる。これは手数料を支払うすべての取引が確実にチェーンに含まれないリスクがあることを指し、イーサリアムの検閲耐性、中立性、弾力性を損なう。
検閲耐性:特定のユーザーやアプリケーションを優遇・差別でき、例えば特定のtxの検閲や処理の拒否、より多い手数料を請求するなど、恣意的なルールを課すことができる。コミュニティでは検閲の二次市場が形成し、より搾取的な手段を取る可能性を危惧する声もある。Ethereumは高いレベルで検閲が防がれる必要がある。
弾力性:単一の支配的なビルダーが何らかの理由でオフラインになった場合、すべてのブロック生成が停止してしまう可能性がある。これはブロック構築プロセスの弾力性が低くインクルージョン遅延が発生する。
中立性:支配的なビルダーによって検閲耐性や弾力性が損なわれると、特定のアクターが影響力を持ちすぎないという中立性が低下しバリデーターを集中化させる力が働く。
このようにインクルージョン遅延や手数料の増加などのUXを低下させる。
https://collective.flashbots.net/t/the-risks-of-vertical-integration-in-mev-boost/235
また単一のブロックビルダーが競争力を伸ばした場合、他のアクターとの統合リスクが大きくなるとの指摘もある。これは洗練された少数のビルダーが得た利益をステーキングに回すことで資金流出の一部を阻止して他業者に競合優位性を発揮できる可能性があることを意味し、MEVサプライチェーン全体が垂直統合するリスクが可能性が懸念される。
ブロックビルダー一元化によって生じる負の外部性はイーサリアムの価値観に反し、ネットワークの根本的な価値を損なう可能性があるためプロトコルのルールを変更して防ぐ必要がある。
2. ブロックビルダーが一元化する原因
ではなぜブロックビルダーの経済機会には”ばらつき”が存在するのか。
まずブロックビルダーはMEV-boostオークションに参加しこのように入札競争をすることでブロックの構築権利をプロポーザーから獲得している。ブロックビルダーは競合ビルダーに勝利するために価値の高いオーダーフローを収集して収益性の高いブロックを作る必要があるが、中には特定のビルダーのみがアクセスできる排他的な取引を取得する業者がいる。
https://ethresear.ch/t/empirical-analysis-of-builders-behavioral-profiles-bbps/
上位ビルダーのパブリック取引・排他的取引の件数と価値転移を定量化した図式を見ると、パブリック取引の件数が多く排他的取引の件数が2割以下であり、図Dを見るとパブリック取引の価値は低く排他的取引に8割近い価値があることがわかる。これはパブリック取引よりも排他的取引の価値が大きいことを示す。
また全取引件数の0.45%である排他的取引からの直接支払い(coinbase.transfers)が13.5%を占める事に注目したい。これはビルダーがサーチャーを保有し独占的に直接支払いを受ける価値が大きいことを示しており、なぜならサーチャーとビルダーは同じ事業体であるためサーチャーが得た利益をすべてビルダーに入札できるため、業者の利益率が向上するためである。
つまりMEV-Boostでブロックの構築権利を落札するには排他的な取引と直接支払いが重要であるといえるが、これらは他の業者がアクセスできない特性を持つため業者間での経済機会に”ばらつき”が生じる。インクルージョンの観点から価値ある取引はオークションで勝ちやすいビルダーに流れ、更に経済機会の不平等性の負のスパイラルが加速する。このように一部業者に経済機会が偏り続ることで小・中規模のビルダーが価値ある取引にアクセスできず、競争力の高いブロックを構築できる業者が少数に偏ってしまう。
これがブロックビルダー一元化の主な原因である。
3. ブロックビルダーが一元化する個別要因
価値の高い取引はパーブリックmempoolでは観測できない排他的な取引に見られ、これは更に排他的取引と保有サーチャーからの直接支払いに分類できる。
排他的取引
POF
bundle
統合サーチャーからのbundle
上記のようにビルダー一元化の要因を分類して、それぞれの力学や集中化の要因を見る。
3.1 プライベート・オーダーフロー(POF)
フロントランから保護して一部のMEVをユーザーに還元するといったインセンティブを与え、カスタムRPCエンドポイントを通してプライベートに集める専用オーダーフロー(POF)である。
例えばFlashbots ProtectというRPCエンドポイントがあるが、これはFlashbots専用のRPCエンドポイントでありFlashbots専用の取引となる。以下のようにウォレットに追加することで取引先を変更することができユーザーのプライバシーが保護される。
フロントラン対策やガス代が高い場合の確認、危険なアドレスに送信する場合に警告が表示されたりなど、ユーザーは様々なメリットを活寿できる。
https://docs.flashbots.net/flashbots-protect/overview/
ユーザーにメリットを掲示しプライベートに取引を収集しているわけだが、これと同じことを他ビルダーや事業者が展開しているため他の競合ビルダーがアクセスできない排他的性質を持つ。
また特定のウォレットプロバイダーがロビンフッドのようにユーザーの取引で収益化を考えた場合、例えばEthereumで行われている取引の最大~70%がメタマスク経由であるという指摘もあるため、単一または複数ビルダーがEthereum取引の~70%に独占的にアクセスでき競争的なブロックを構築できる。
例えば現在メタマスクの標準的な取引の送り先はオープンmempoolだが、メタマスクが標準の送信先を契約している単一または複数ビルダーに取引を送信し、対価として資金を得ることができる。あるいはメタマスク自身がブロックビルダーになる可能性もある。
ウォレットプロバイダー以外にも取引の発注元であるUniswapやCoinbaseなどはフロントエンドをユーザーが利用する時、バックエンドで取引を自由に動かすことができ、独占契約している特定のエンドポイントに送信できる可能性もある。このことからフロントエンドの運営母体と独占契約した特定の業者のみがアクセスできる取引が発生する可能性がある。
このように特定のプロバイダーが価値ある取引にアクセスできたり、または独占契約することで価値ある取引を確保できる。このような環境下では独占契約できず価値ある取引にアクセスできない業者は淘汰されるためビルダーが一部業者に集中する可能性がある。
3.2 サーチャー・バンドル
サーチャーがどのようにブロックビルダーを選びバンドルを送信する要因を明らかにすることは、中立的なブロックビルダーが活躍したり課題の力学を掴むために重要である。
まず38のアクティブなビルダーの中で上位の4つのビルダーは他に比べてbundleの受信数が多く87%の市場シェアを握っている。ビルダーの競争力とbundle数には相関がありサーチャーは競争力の高い(=シェア率の高い)ビルダーに送信する傾向がある。
https://frontier.tech/builder-dominance-and-searcher-dependence
また88.5%のサーチャーが4つ以上のブロックビルダーにbundleを送信していることから、インクルージョンの観点でサーチャーは複数ビルダーに送信する利があるといえる。
その理由として競争力のあるブロックビルダーは1社ではないため上位4社に送信すれば88%の確率で取り込まれるからであるが、サーチャーはブロックビルダーがMEVを盗用しないことを信用する必要があるためサーチャーが送信する数と信用コストはトレードオフである。
信用できて競争力の高い少数のビルダーに取引が集中し合理的な大半なサーチャーは同じ選択肢を取る可能性がある。これがサーチャー・バンドルにおけるビルダー一元化の要因である。
まとめると以下のようになる;
サーチャーは競争力が高くシェア率を持った複数のブロックビルダー(少数)に送信する。なぜならインクルージョンが早まるからである。
基本的にサーチャーは経済合理性に従って動くため大半のサーチャーが同じ選択をする
結果、競争力の高い少数のトップビルダーのみにオーダーフローが集まる
サーチャーの合理的な選択とブロックビルダーの競争環境から業者ごとに経済機会の差が生じ、アクセスできない業者が淘汰され洗練された業者のみが残る。
3.3 統合サーチャーからのバンドル
全体の5.5%のサーチャーは1つのブロックビルダーのみに送信しており、これはビルダーが独自のサーチャーを保有している状態を指す。
例えば、BeaverやRsycのような業者は独自のサーチャーを保有しており、統合後、全体の25%以上のブロックがBeaverに、15%以上のブロックが同じくRsycによって生成されている。
全体における割合は少ないがサーチャーとビルダーは同じ事業体であるためサーチャーが得た利益をすべてビルダーに入札できる。この戦略によって業者の利益率が向上しオークションで勝ちやすくなる。
またHFTビルダーの特徴としてSMGの論文ではサーチャーと統合している業者はブロックトップの抽出能力に優れていることが指摘されており、排他的取引以外の要因で一元化する可能性があるため深ぼる。
まずMEV-boostオークションで交換されるブロックはフルブロックを指すが、フルブロックのスペースは「トップとボディ」の2つに分類することができる。
ブロックのトップ:Cex - Dexのアービトラージが中心である。オンチェーン取引への優先的なアクセスとCexでの高品質な実行がセットで必要となり、Cexでの高品質な実行にはHFT戦略と取引⼿数料が必要となる。統合サーチャーを保有する業者がブロックトップの抽出能力に利点があり、彼らをHFTビルダーと呼ぶ。
ブロックのボディ:フロントランニングやサンドイッチ、Dex - Dexのアービトラージが中心でる。価値の高いオーダーフローへのアクセスが必要となり歴史的にはPublic mempoolからアクセスしていたが、RPCエンドポイントを利用して排他的なPOFにアクセスする業者も存在する。
同SMGの論文によると特定のHFTビルダーの通常時の勝率は30%ほどだが価格が1%動くと78%で勝利し、2%動くと96%で勝利することが示唆される。
これはHFTビルダーは価格変動が大きなときにオークションの勝率が高まることを意味する。
https://arxiv.org/pdf/2305.19150.pdf
MEV-boostでは「トップ・ボディ」の区別はなくフルブロックという単位でオークションを行っているため、トップの価値が高ければボディの価値も相対的に高まり逆も同様のことがいえる。
Cex - Dexのアービトラージの特性上、少なくとも価格変動が大きいときはHFTビルダーはオークションで有利となりPOFの獲得に資金をより投下できる。
このようにPOFなどの排他的取引へのアクセスとは必ずしも関係していないCex-Dex アービトラージの利点を持つビルダーが多くの最終的にブロックシェアを獲得する可能性がある。
https://arxiv.org/pdf/2305.19150.pdf
例えばBeaverやRsycのようなHFT業者はブロックトップの抽出能力と正の相関があり、逆にFlashbotsやbuilder69は負の相関があることがわかる。
サーチャーを保有するビルダーは自社サーチャーの取引を優先するため、一般的なサーチャーの取引が選択されづらくなり、サーチャーの参入障壁が更に上昇する。またサーチャーを保有しDex - Cexアービトラージ戦略を行える業者は少なくとも資本が必要である。
このように資本やCexへのアクセスが優れた大規模な業者は限られているので、最終的には競合優位性が2,3社のみに流れてしまう可能性がある。このようにサーチャーを保有する流れは今後増加すると排他的取引の獲得機会も増加し中央集権化が促進する。
統合サーチャーの文脈におけるブロックビルダー一元化は強い集中化の力を持つため、チェーンの透明性という特徴を利用して可視化・分析したり、プロトコルのルールを変更する必要がある。
個人的に垂直統合は他領域でも議論を呼ぶ内容であるため、過去に数々の事例があるためブロックチェーン以外の事例を元に考えることはひとつの重要なキーになると考える。
4. 議論されている解決策
ブロックビルダー一元化に関する解決策として開発議論されている手段を説明する。
共同ブロック構築:ブロック構築を分割することで競争を歪めるインセンティブや機会を減らすことができる
信頼できる柔軟なコミットメント:プロポーザーが柔軟にブロックスペースにコミットメントすることでリレーを通じたフルブロックの交換以外にも柔軟に信頼できる交換を行える
4.1. 共同ブロック構築
現在開発研究が最も進んでいるのが共同ブロック構築という解決策である。
ビルダーの情報へのアクセスを分散化させ、複数のビルダーがチェーンをまたいで協力し1つのブロックを作成する手法である。
取引へのアクセス:排他的取引を単一ビルダーに送信するのではなく、共同プールに送ることで経済機会の不平等性を軽減できる可能性がある。
ソート・アルゴリズム:ビルダーは取引やバンドルの最も収益性の高い組み合わせを探すために、洗練されたアルゴリズムを保有している。共同ブロック構築では、複数ビルダーがアルゴリズムを実行し合い異なる取引やバンドルを組み合わせることで、単独ビルダーよりも収益性の高いブロックを構築できる可能性がある。
クロスチェーンの実行:共同ブロック構築の参加者は、複数チェーンのMEVを補足するために他参加者と協調する方法が必要となる。
プライバシー:単一のビルダーに取引やbundleを送信する場合MEVを盗まず実行することを信用するが、共同ブロック構築の場合は複数のビルダーがブロック構築プロセスに参加するのでプライバシーを担保する別の方法が必要であり、以下のようなデザイン案が議論されている。
大規模なビルダーに依存しないようにするため経済機会へのアクセスを民主化する。その結果、協力して分散的にブロック構築するほうが収益性が高くなる可能性があり、共同ブロック構築が実用的に利用されるためにはネットワークに参加する経済的インセンティブと同じ空間に多くの取引が集約するといったネットワーク効果が必要となる。
SUAVE
SUAVEは共同ブロック構築の代表的な例であり、以下のような目的がある。
排他的取引の中和:取引にはプライバシーが付与されるべきであり、ユーザーが作成した取引から生じる一部のMEVは獲得権利が与えられるべきである。また彼らの取引は非公開であり、すべてのブロックビルダーが利用できるようにする。
クロスドメインMEVの中和:チェーン間のブロックビルダーは互いに統合する必要があるが、Mev-geth以前にサーチャーとマイナーが統合している事例があるためオープンでパーミッションレスな方法で統合する。
分散型のネットワーク:最初の2つの要素であるユーザーにプライバシーとMEV権利を与える取引システムと、ビルダーに経済機会の権利を与えるブロック構築システムが分散化される必要がある。
排他的取引は取引送信者が独占ビルダー以外のビルダーにも取引を送信すれば解決でき、SUAVEはオークションによってそのインセンティブを作る。取引を販売したり自分だけが保有するよりもオープンな方法で共有するほうが収益性が高くなり、SUAVEに送信された取引はどのブロックビルダーもパーミッションレスにアクセスできるため排他的取引を中和する。
https://writings.flashbots.net/the-future-of-mev-is-suave
SUAVEの共同ブロックビルディングは3つの役割によって実現する。
プリファレンス環境とは、プリファレンスの表現と決済のために最適化された環境である。例えば「Xという資産を持っていて、Yが欲しく、Zを支払う意思がある」、あるいは「取引順序のプリファレンス」など。 具体的にはユーザーが自分の目標を宣言するために署名するメッセージであり、目標が達成された場合に宣言を解除する。重要なのはクロスドメインMEVのプリファレンスを表現できることで、これによりビルダーはクロスドメインMEVを認識して捉えることができる。
執行市場とは、プリファレンスに最適な実行を提供することで競争するネットワークである。SUAVEのMempoolを経由して執行者と呼ばれるアクターのネットワークにプリファレンスが渡され、 執行者は最適な実行を提供することで競争する。OFA、ビルダー、RPCプロバイダー、ソルバーなどが執行者の例であり、これは多くのドメインでMEVを民主化するために重要である。理由は執行市場はオープンで中立的な空間であり、誰でも無許可でプリファレンスの最良執行を得ることができるため排他的な取引が中和される。
分散型ビルディングとは、プリファレンス環境と執行市場からの出力を受けて、共同でフルブロックを構築するビルダーのネットワークである。 Flashbotsビルダーを分散化する方法であり単一ビルダーの役割を分散化し、誰でもブロックの一部を構築するビルダーになれる。重要なのはプライベートかつパーミッションレスであること。具体的には誰でもネットワークに参加でき、参加すると暗号化されたプリファレンスにアクセスできる必要があることである。
これら3つの役割はSUAVE Chain(MEVM)によって実現される。このチェーンはEVMと互換性があり、これらの要素が相互作用し時間とともに分散化するための足場を提供する。
現在Flashbotsが中心となって議論・開発をオープンに進めており、2023年の第4四半期にSUAVE Devnetを立ち上げる予定である。
https://writings.flashbots.net/mevm-suave-centauri-and-beyond
これによりCentauriのリリースを完了し、MEVMの初期バージョンを提供する。Centauriの初期のアーキテクチャには「MEVM Chain」「Confidential data store」「Excution Node」などの主要要素がある。
https://drive.google.com/file/d/1mlrHzQp-nEATd1pkWIpcGxlUbiEtDsrC/view
ユーザーはブロックに含めたいプライベートデータをMEVM上のmempoolに送信し「オークションで取引を実行しても大丈夫か」といったコントラクトに承認し、執行者がバックランやアービトラージを行う。最終的には、Ethereumなどのチェーンに含まれるブロックを分散的に作成する。
MEVM Chain(Suave Chain)
MEVM ChainはMEVのユースケースのための前処理を備えたEVMの改良版であり、SUAVEの目的を果たすために役立つ。例えば新しいMEVインフラの構築ハードルが下がり競争が最大化され、SUAVE上でブロック構築やオーダーフローオークション(OFA)メカニズムが普及する可能性がある。
Ethereumでは構築できないオフチェーンデータへのアクセス、オンチェーンだとコストが掛かりすぎるブロック構築、個人情報を必要とするオークションなどのアプリケーションをEVMとそのツール(solidity、foundryなど)といった手段を利用し開発できる。
これにより開発ハードルが下がり、集中型インフラであるOFAやブロック構築などが再構築可能となり、分散化されたMEVMに集中型インフラが再構築されるとMEVサプライチェーンが分散化する可能性がある。
またMEVMは機密データの計算をオフチェーンで実行するノードに移すことで、プライバシーと効率性を同様に提供する。MEVの文脈ではプライバシーが重要であり、なぜならフロントランやMEV盗用のリスクからデータを共有できないからである。
最初はFlashbotsや別のサードパーティが信頼できる方法でノードを実行するが、今後ノードをSGXにすることで中央集権的アクターへの信頼を下げる。
実行ノード(Excution Node)
MEVM上の前処理の一部では実行ノードを呼び出す。これはオフチェーンのノードである。例えば、取引をシュミレーションしたり組み合わせたり、ブロック構築時に新しい取引を追加したりする。これはチェーン上では実行したくない、信頼性の高いプライベートな計算をオフチェーンで行うために使用され、チェーン上には計算の出力と結果だけが表示される。
また実行ノードからアクセスできるチェーン上に保存したくないユーザーのプライベートデータの保管場所がConfidential data storeとなる。
注意すべき点としてはMEVMの実行は実行ノードが行うことである。MEVMではスマートコントラクトで定義している開発者がおり、スマートコントラクトはブロック作成の際に取引のシュミレーションを行い、そのアルゴリズムに従って処理することを指示する。
https://writings.flashbots.net/mevm-suave-centauri-and-beyond
実際にMEVMで書かれたブロック構築のアルゴリズムを見ると、getState()、simulateBundle()、exportBlock()を使用して、Ethereumの最新状態を取得し、バンドルや保留中のブロックに新しい取引を追加することをシミュレートしプロポーザーに提案している。
これはMEVMが提供するEthereum上では使用ができないエッジであり、処理を行うのはMEVMの実行ノードである。またSGXのような信頼できる実行環境ではコードがある程度のプライバシーと整合性を保って処理されることがわかっているため、プライベートな計算を取得する効率的な方法であり次のリリースで組み込まれる予定である。
しかしこれらは一例であり、前述した通り他にも構築できるものはある。例えばMEVMにUniswapXやCowSwap、新しいアルゴリズムの構築など。
https://drive.google.com/file/d/1mlrHzQp-nEATd1pkWIpcGxlUbiEtDsrC/view
独自タイプのインフラをMEVM上にデプロイする障壁が低いため、様々なコントラクトが作成される。異なるアプリケーションはMEVMと一緒に構成されており、単一のFlashbots Builderではなくオープンな市場で公平に競争できるマーケット環境が作れる。
SUAVEは共同ブロック構築のプロジェクトでもあるが、集中型インフラ(ビルダー、OFA、RFQルーティングなど)をMEVM上のスマートコントラクトとして構築可能にする分散型プラットフォームでもある。
4.2. 信頼できる柔軟なコミットメント
ブロックトップの抽出能力に優れた業者は独自でサーチャーを保有しているため経済機会の不平等性という観点からはSUAVEに参加するインセンティブは低く、またトップの抽出能力に優れたHFTビルダーの特性上、ボラティリティの大きい状況においては共同構築したブロックよりもHFTブロックのほうがオークションでの勝率が高くなる可能性が考えられる。
信頼できるコミットメントとは、オークションが「ブロックを作成する権利全体を売り飛ばす設計」を問題として、プロポーザーのコミットメント(ブロックの交換と強制)の方法に柔軟性を持たせてオークションの機会を個別化する解決策である。
PEPC
https://efdn.notion.site/PEPC-FAQ-0787ba2f77e14efba771ff2d903d67e4#2dfe02bc6dcd48878c82647676ca8d68
PEPCはプロポーザーが構築するブロックに対して拘束力のあるコミットメントを結べるプロトコルのツールである。これは2022年10月に公開された投稿「Unbundling PBS」で提案された。
現在Mev-boostのオークションでは、ブロックビルダーとプロポーザー間で単一タイプの交換が強制される。交換の強制はリレーという信頼できる第三者が提供しており、ePBSはイーサリアムのプロトコルがリレーの役割を提供することである。
単一タイプの交換とは、例えばプロポーザーの支払いを含むフルブロックの交換であり他にも交換の種類はあるが最終的にePBSではその中の1つを提供する。PEPCはプロポーザーがより柔軟にブロックビルダーとプログラム可能な交換契約を結べないか?という問から生まれており、以下のような複数交換タイプにコミットメントできる;
Full block auction:単一ビルダーへのフルブロック構築の委任
Partial block auctions:複数ビルダーへの部分ブロックの構築
Transaction inclusion lists:含めるtxの指定
Future block production rights:特定のビルダーの(部分的な)ブロックを使うという約束を前もって決定する
parallel block auction:ブロックスペースを分割し、一部分を個々のブロックビルダーに対して競売にかける
Slot vs block auctions:特定のハッシュを持つビルダーのブロックのみを使用することを約束することで、ブロックの内容を事前に約束できる
カスタマイズ可能なその他候補
PEPCはプロポーザーが特定のブロックビルダーに委任する単一の仕組みに依存せず、ブロック構築のタスクに信頼できるコミットメントを行える一般化されたインフラとして意図されている。
現在、既にEigenlayerのようなプロトコル外の仕組みは存在しておりバリデーターは外部コントラクトを通じてコミットメントを行えるが、同時にいくつかの考慮すべき点がある。
まず最初にプリシンバル・エージェント問題である。具体的にはPoSはバリデーターにセキュリティを委任しているがバリデーターがEigenlayerによってプロトコル外に切り出された場合、バリデーターのインセンティブとプロトコルの認識の不一致となる。
つまりバリデーターがEigenlayerにコミットしていることをプロトコルが知らない可能性があり、バリデーターがEigenlayerで不誠実なことをした際プロトコルが認知できないためインセンティブにズレが生じる。
解決策はプロトコル外で何が起こっているのか、プロポーザーが何をしているのかについての全員の見解を一致させることである。具体的にはプロトコル外のパフォーマンスに基づいてプロトコルの残高を減らすことである。これによりバリデーターの実際の残高がプロトコルの見解と同期される。これをプロトコル内Eigen Layer(IP-Eigenlayer)と呼ぶ。
次に考慮すべきなのがEigenlayerのコミットメントは実行レイヤーのみで強制可能であること。コミットメントが実行されない場合、その事後にスラッシングにより強制する。これを楽観的検証と呼ぶ。
PEPCが行うコミットメントの強制はフォークチョイスルールの一部であり、より強力なものを意味する。プロポーザーのコミットメントを楽観的検証(提案者はコミットメントを破ることができるが、それによって金銭的なペナルティを受ける)から悲観的検証(プロトコルは提案者にコミットメントを破ることを許さず、コミットメントを満たさない場合はブロックを無効にする)に移行する。
このようにコミットメントが締結され、適切に履行されたかを判断することが重要となるため、まずプロトコルはいくつかの結果を区別する必要がある。
プロポーザーがコミットメントを行い、外部の第三者がそれを処理した
プロポーザーがコミットメントを行い、外部の第三者がそれを処理しなかった
プロポーザーはコミットメントを結ばなかった
プロポーザーはコミットメントを行った後に、違反する行為を行った。例えば自分の利益のために第三者から商品を盗んだなど
結果1と2は有効であり、3はコミットメントがなく、4は無効となるため、プロトコルは1と2のみを安全なものとしたい。結果、1と2を識別することが重要であり、また同様にコミットメントが取り消せないことを保証することも重要である。
楽観的検証のアプローチは無効なブロックを作成した場合アテスターがプロポーザーをスラッシングすることであるが、インセンティブにはズレが生じる。なぜならリステークしたバリデーターの価値がXだとすると、バリデータにX以上の利益をもたらす機会が存在する場合、スラッシングが最適なディスインセンティブにならないからである。
なので、悲観的アプローチを考える必要がある。それはEigenlayerを使用して追加のスラッシュ条件にアクセスするかわりにブロック用の妥当性条件をプロポーザーが作成できるようにして、アテスターはこれらの条件が満たされているかどうかに基づきブロックの妥当性を評価することである。これを悲観的検証と呼ぶ。
このようにPEPCは柔軟なコミットメントをプロトコルで強制することで、プロポーザーごとに最適なブロック構築の委任ができるようになる。
PEPC-Boost
PBSではインプロトコルのePBSとプロトコル外のMEV-boostといった代替案が存在した。それではPEPCでは、インプロトコルのPEPCとそれに付随するプロトコル外の選択肢は可能なのか。
PEPCのFAQではMEV-Boostの変更を必要としないPEPC-Boostの仕様案が提案されている。この実装では、ブロックをトップとボディの間で分割するブロックオークションを生成する。そのためにPEPC-Boostと呼ばれる新しいリレーが開設され、これには2つのエンドポイントがある;
TOB
endpoint(ブロックトップ):入札と共に単一のトランザクションが受け入れられるROB
endpoint (ブロックの残りの部分):入札と共にトランザクションのリストを受け入れる
PEPC-BoostリレーはTOB endpointから受け取った入札でブロックを構築する。リレーによって署名されたヘッダーはTOB bid + ROB bid
の入札とともににプロポーザーに送信される。ただTOBによって受信される「単一のトランザクション」はサーチャーによって悪用される可能性があり、それが単一のメタトランザクションに複数のプリファレンスを詰め込みTOBの入札価格をつり上げるなどである。
しかしPEPC-boostによってプロポーザーのコミットメントに柔軟性が生まれ、例えばプロポーザーはブロックトップを単一のHFTビルダーに委任しボディをSUAVEにコミットメントするなど委任先を柔軟に最適化できる可能性がある。
HFTビルダーのエッジであるCex - Dexアービトラージをブロックボディから分離することで取引へのアクセスとCex - Dexアービトラージという2つの競争優位性によってオークションを分離する。その結果、システムの競争力を高め、一部の利点を持つビルダーへの集中化を抑制できる。あるいはMEVMにCex - Dexアービトラージ対策のアプリケーションやリソースが展開される可能性がある。
SUAVEによる実行レイヤーからのアプローチとPEPCによるコンセンサスレイヤーからのアプローチは相互補完的であり、ユーザーとプロポーザーの効用を最大化し、ビルダー集中化の負の外部性を制限する。
コミットメントの種類については非常に広い設計スペースがあり、Eigenlayerなどの外部プロトコルを使ったMev-boost + / ++やPEPC-Boost、PEPC-DVTなどで短期的にテストされる可能性が高い。
結論
この記事では、ビルダー一元化についてまとめた。以下は簡単なまとめです。
現状ブロックビルダー市場は上位4社のビルダーが87%を握っており7社まで含むと94%となる。上位4社のビルダーはその競争優位性から恣意的なルールを課せる可能性があり、その結果ブロック構築プロセスが閉鎖的になる。これは手数料を支払うすべてのトランザクションが確実にチェーンに含まれないリスクがあることを指し、イーサリアムの検閲耐性、中立性、弾力性を損なう可能性がある。
MEV-Boostでブロックの構築権利を落札するには排他的な取引と直接支払いが重要であるといえるが、これらは他の業者がアクセスできない特性を持つため業者間での経済機会に”ばらつき”が生じる。一部業者に経済機会が偏り続ることで小・中規模のビルダーが淘汰され、ブロックビルダーが一元化する。
排他的な取引と直接支払い以外の要因としてDex-Cexアービトラージによってビルダーが一元化するリスクもある。サーチャーと統合している業者にブロックトップの構築が優れていると示唆されている。ブロックトップの抽出能力に優れているbeaverやrsycといったビルダーはボラティリティの大きいときに勝率があがり、最終的にブロックシェアを獲得する可能性がある。
SUAVEは排他的取引は取引送信者が独占ビルダー以外のビルダーにも取引を送信すれば解決でき、SUAVEはオークションによってそのインセンティブを作る。取引を販売したり自分だけが保有するよりもオープンな方法で共有するほうが収益性が高くなり、SUAVEに送信された取引はどのブロックビルダーもパーミッションレスにアクセスできるため排他的取引を中和する。
PEPCはプロポーザーが特定のブロックビルダーに委任する単一の仕組みに依存せず、洗練されたプロポーザーはエージェンシー(行動する自由)を取り戻し、ブロック構築のタスクに信頼できるコミットメントを行える一般化されたインフラとして意図されている。SUAVEとPEPCの相互補完的な関係からビルダー一元化の負の外部性が抑制される可能性がある。
引用
https://writings.flashbots.net/the-future-of-mev-is-suave
https://mirror.xyz/hismrti.eth/qU4f9dAROTaARf_VQaaVXD3xxDwKO1-BgDwGXJs6sqM
https://collective.flashbots.net/t/the-risks-of-vertical-integration-in-mev-boost/235
https://arxiv.org/pdf/2305.19150.pdf
https://frontier.tech/builder-dominance-and-searcher-dependence
https://drive.google.com/file/d/1mlrHzQp-nEATd1pkWIpcGxlUbiEtDsrC/view
https://efdn.notion.site/PEPC-FAQ-0787ba2f77e14efba771ff2d903d67e4#2dfe02bc6dcd48878c82647676ca8d68
https://mirror.xyz/ohotties.eth/lBEXiiU7yK91OuSn8QyJPM9Db8GuyDFzCEUAj60BWyI
https://noxx.substack.com/p/order-flows-kingmaker-of-the-block
https://www.youtube.com/watch?v=pMhc3MHip5k
https://twitter.com/bertcmiller/status/1595492392022421504?s=20