イーサリアムの基礎:MEV編
去年の12月に書いた未公開記事を発見したので、手直しを加えて公開しています。参照しているデータや数値は執筆時のものなので、ご了承ください。
先日にツイッターでMEVに関するソースをまとめたところ、たくさんの反響を頂きました。
イーサリアムを始めとするブロックチェーンの設計において鍵となる要素があり、それがMEVです。あまり語られることは少ないですが重要です。
さて、そんなMEVですがその概要は非常にわかりにくいものとなっています。その理由は日本語情報が少なく、また専門用語が多いのも原因だと思います。
MEV
PBS
MEV-Boost
今回のレポートではそんなMEVとその周辺知識についての理解を深めることが目的です。ただどうしても専門用語を使う場合がありますので、その際は外部リンクを貼っておきます。都度確認していただければ幸いです。
1.MEVってなに?
MEVとはなにか。イーサリアムの公式ページを参照します。
MEVはMiner / Maximal extractable valueとは、ブロック内の取引を含めたり、除外したり、順序を変えたりすることで、標準的なブロック報酬やガスフィーを超えてブロック生産から抽出できる最大の価値のことを指します。
よく言われるのは、MEVとはマイナーやバリデーター(次からバリデーターで統一)が抽出できる利益のことを指します。という説明。バリデーターがユーザーから徴収できる「見えない税金」と表現されることもあり、基本的にはブロックチェーン上でブロックを生成する際に、バリデーターがトランザクションを移動することで引き出せる最大の価値のことを指します。
ネットを俳徊していると「MEV と Flashbots について - 基礎編」というわかりやすい記事を見つけたので、そちらを参照します。
まず、マイナーは通常Gas Priceが高いTX(取引)から順にブロックに入れていくことで得られる利益を最大化しています。なので、私達Ethereumユーザーは高いGas Priceを提示するとすぐにブロックに入れてもらえて、低いGas Priceを提示するとTXが通るのを待たされる訳です。
また、ブロックに含まれるトランザクションには順番があります。 例えば先着1名しか買えないNFTがある時、ブロック内のトランザクションに順番がなければ、誰が買えているのか分かりません。順番があることによって、同じブロックでも買えたTX、買えなかったTXがある訳です。 そして、この順番もマイナーの利益を最大化にするためにGas Price順に並べられています。
ここまでは、今までEthereumを利用してきた方ならば、なんとなく感覚と一致していると思います。
しかし、Ethereumの仕様としては、ブロックにどのTXを入れるかであったり順番であったりは指定されていません。 つまり、Gas Price順に並べてもいいし、マイナーがTXを受け取った順に並べてもいいし、自分が好きなTX(例えばUniswapを利用するTX)だけを入れてもOKです。そういうことをするマイナーが存在しないのは、より多くのEtherを得るという目的に反するからです。
しかし、DeFiの躍進に伴ってトランザクションの順番というものが重要になりました。 「フロントランニング」や「バックランニング」がその最たる例で、Gas Priceを調整することで自分のTXを他人のTXの1個前や1個後に差し込むことで利益を得ることに誰かが気づき、フロントランナーとして忌み嫌われる存在が生まれました。
その後「マイナーがトランザクションを意図的に選択したり並び替えたりしたら同様の利益を得られるんじゃね?」と考えた天才が現れまして、これをMEVとして「Flash Boys 2.0」という論文で提唱しました。 ちなみに、論文はIEEE Symposium on Security and Privacy 2020というすごい学会で採択されており、ここから同じ内容の論文を読むことができます。
すごくわかりやすい解説です。MEVの概要は上記事を読めば掴めます。
私からはブロック構築に関して追記してみます。
イーサリアムのブロックはローカルまたは外部で構築することができます。ローカルでのブロック構築は至極単純で、バリデーターがパブリックメンプールからTXを受け取り、それをブロックにまとめて、このブロックをネットワーク上の他のバリデーターに伝達することです。これはすべてバリデーターが単独で行います。
対して、外部でのブロック構築では、バリデーターはMEV-Boost(後に解説)というソフトウェアを実行することで、ブロック構築のプロセスを外部委託し、バリデーターが専門知識や技術、ビルダーとの関係なしにMEVから利益を得ることができます。
MEV-Boostでは、バリデーターが接続したリレーの中から最も入札額の高い(最も収益性の高い)ブロックを選択。このサプライチェーンの主なアクターには、サーチャー、ビルダー、そしてリレーがあります。
この「MEV と Flashbots について - 基礎編」と私の追記を読むことで、MEV及びMEV-Boostの概要は掴めると思います。ピンと来ない方は、まずは上の記事から読んでみてください。
なお、MEV-Boost及びそれぞれのアクターに関しては「MEVのサプライチェーン」で深堀りしています。
データを見ると、2020年1月1日以降、累積抽出されたMEVは6.8億ドルであり、直近30日間に200万ドルが抽出されていることがわかります。
2022年9月、Uniswapの取引量の40%以上はMEVボットによる貢献で、Uniswapのフロントエンドからの取引は20%未満です。
イーサリアム上のAMMの取引量のほとんどがMEVボットによってもたらされていることを示しています。
2.MEVのサプライチェーン
前提として、商品や製品が消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのことをサプライチェーンといいます。
今回はマージ後のMEVの主要なサプライチェーンを見ていきましょう。
まずユーザーはdappのフロントエンドを介してウォレットでトランザクションを作成。これらのトランザクションはMempoolに送信されます。 その後は、
Searcher:ボットがMempoolをスキャンしトランザクションをまとめる
Builder:まとめられたトランザクションはビルダーに渡され、まとめた取引と料金の入札をリレーに送る
Relayer:ビルダーとバリデーターの両方がリレーに接続されている場合、リレーは取引をエスクローに送りオークション前に取引を隠し、料金だけをバリデーターに明かす
Validator:ブロックを検証するためにコンセンサスの役割を果たす。利益を追求するサーチャーとビルダーにブロックスペースを販売し、その対価として報酬(MEV+Tips)を得る
これがMEVのサプライチェーンです。
9月に行われたマージによってビルダーとバリデーターが分離しました。これをPBSといい、この仕組を採用しているFlashbotsのモデルを「MEV-Boost」といいます。
PBSとはProposer-Builder Separationの略です。少しだけPBSとMEV-Boostあたりを解説します。
提案者・ビルダー分離(PBS)前
PBS前の設計では、バリデーターはビルダーとしての役割もあり、どの取引をブロックに含めるかを選択することで、より多くのMEVを獲得することができました。
これにはいくつかの問題があります。
ユーザーの待ち時間が長くなったり、より高いガスを支払うことになること
リソースあるバリデーターにMEVが偏り中央集権的になること
マイニングプールのみの参加
クライアントの多様性に欠ける
検閲耐性に欠ける
これに対しイーサリアムの開発者は 、PBSと呼ばれるプロトコル内のソリューションを開発。プロトコルレベルで”マイナー”と”ビルダー”が別アクターになり、マイナーの中央集権的な力が弱まり、検閲耐性が上がります。
しかし、プロトコルレベルでのPBSは技術的にかなり複雑で、少なくとも数年では完成しないと言われています。しかし、この中央集権的リスクを解決するための別ソリューションは複数あり、そのひとつとしてFlashbotsのような企業が、PBSの仕組みを使った代替策を作ることが挙げられます。
それがMEV-Boostです。FlashbotsはPoW EthereumではMEV-Geth、PoS EthereumではMEV-Boostを開発しています。ちなみに、現在イーサリアムバリデーターの9割がMEV-Boostをインストールしていて、ブロック全体に占めるMEV-boostのシェアは8割強あります。
なぜ、こんなにMEV-Boostが使われるのかと疑問に思う方もいると思います。その理由は至ってシンプルで、その収益性の高さです。
Flashbotsでは、MEVの価値をビルダーとバリデーターの間でより公平に分配しようよ、みたいな考え方と仕組みになっていて、Hasu氏によると、MEV-Boostを使用することで、検証者のMerge後のステーク報酬が135%増加したとのこと。
またMEV-Boostはリソースに関係なくMEVを入手できる設計なので、1人の主体が大規模なリソースを持つバリデーターと同じくらいMEVを得られます。
つまりETHの安定した利回りを得るためではなく、ローカルでは決して構築できない高MEVブロックの提案者になるチャンスを得るためにMEV-Boostはインストールされます。MEV-Boostがマージ後急速に普及し、わずか2カ月で90%近くのバリデーターがすでに稼働しているのは至極当然の話しなのです。
また現在そのバリデーターの34%近くはLidoが締めていて、果たしてMEV-boostは中央集権化を促進させるのか、という議論もあったりします。
ちなみにもしMEV-boostが集中化の原因かどうかを判断する場合、どの指標を見ればいいのでしょうか?。個人のバリデーターがMEVにアクセスできるようになったのはマージ後なので、マージ前とマージ後のステーカーのシェア率の変化を見れば良さそうです。もしシェア率が高まれば、集中化の促進と相関があるといえるでしょう。
画像の通り。シェア率に変化はありません。これはMev-boostがリソースに関係なくMEVを分配している証拠で、中央集権化を促進していないことがわかります。これに対する反論として、Mev-boostの採用率が低いから、または実際にバリデーターに支払われるMEVが少ないからみたいな議論も合ったりしますが、これに関してはデータで違うことを証明できます。
ちなみにリレーという存在がMEV-Boostにはあるので、これを少し解説します。
これはビルダーとバリデーターの間に一時的に存在するものです。
リレーは取引をエスクローに送りオークション前に取引を隠し、料金だけをバリデーターに明かすことで、バリデーターが自分のブロックを構築できる中央集権的リスクとその検閲を減らすことができます。
その結果、バリデーターは一番高い料金のブロックを選ぶだけでよくなるわけです。つまりリレーはバリデーターがビルダーからのMEVの盗用防止に繋がります。
一言でいうと、リレーはビルダーとバリデーターを繋ぐオフチェーンマーケットプレイスで、より詳細なフローは以下です。
このようにリレイヤーによって、ビルダーは特定のバリデーターを信用する必要はなくなりましたが(逆もしかり)、新たにリレイヤーを信用する必要ができました。またリレー自体はブロック全体を見れてしまうので、MEVの盗用や検閲ができかねます。新たにリレーの信用や検閲の問題がでてきました。
詳しくは記事の後半で解説しています。
提案者・ビルダー分離(PBS)後
PBS後にはその間に提供するものをイーサリアムのプロトコルが体系化し、これをインプロトコルPBSといいます。つまり、PBSはリレイヤーを使わずとも同じ権限分離を提供し、それゆえ分散化が促進されるのです。
これはPBSが定着すれば、リレイヤーが必要なくなることを意味します。しかし、それまでの間は少なくともリレイヤーは必要とされるはずです。
まとめると、PBSとはビルダーとバリデーターを分けること。その目的は旧バリデーターの中央集権化を防ぐため。しかしPBSは技術的に難しくまだ実装はできない。この仕組を使っているのがMEV-Bosst。ちなみに、これをイーサリアムプロトコル内に実装しようというのが「The Scourge」です。
インプロトコルPBS後でも完全な非中央集権化は難しいとされていて、そのためのソリューションもいくつか考えられています。
上は基礎から脱線してしまうため、興味ある方のみ覗いてみてください。
ちなみにPBSはスケーラビリティの側面でも使えることがわかり、Dankshardingにも応用されていますが、先程述べたように元々はバリデーターに集中するリスクに対処するためのもので、最初の文脈としてはMEVです。
3.MEVの種類
MEVの代表的なものはフロントランニング、バックランニング、サンドイッチアタックと呼ばれるものです。機会としては、アービトラージと清算が中心です。
追記:種類に関してはekさんの記事がわかりやすかったです。
1.フロントランニング
フロントランニングとは、特定の取引より先に注文を入れるために高いガス料金を支払い、その取引を先に入れ込むことを指します。これによってユーザーの取引は失敗するか、より悪い価格で実行されるかの2択になります。
2.バックランニング
バックランニングとは、取引によって価格の大きなズレが生れた後、ボットが別の取引をすることを指します。
バックランニングの一般的な例はアービトラージです。
このタイプのMEVは、市場の安定性を整えてくれるので、全体として良性であると考えることができ、Benign MEVと呼ばれることもあります。
上のツイートにもある通り、これはCosmosのようなマルチチェーン構造のネットワークでは特に有効とされています。
3.サンドイッチ攻撃
1と2を組み合わせたコンボ技。サンドイッチ攻撃とは、ボットがユーザーの取引の前に買い注文を出し、ユーザーの取引の後に直接売り注文を出すことです。
ボットは取引前に買い注文をいれ、取引後に売り注文を出す。するとその分の差額が利益となるわけです。
例えば、Mempool内の10ETHの買い注文を認識し、その直前に2ETHの買い注文を出すとします。ユーザーの注文は10ETHより高い価格で注文され、ボットはすぐに売却。差額の0.2ETHが利益となる。みたいなイメージです。
バックランニングとは異なり、サンドイッチ攻撃はユーザーに高い注文やUXを与えるので、悪いMEVとして分類されます。
このサンドイッチ攻撃に対して質問を頂いたので、詳しい解説記事を貼っておきます。「クリプト訪ねて三千里:第931話DeFiでのサンドイッチ攻撃」
4.タイムバンディット攻撃
これはブロックが生成された後、マイナーがそのブロックを再マイニングしてブロックチェーンの再編成を意図的に引き起こし価値を抽出することを指します。これはユーザーの取引を無効にしてしまう、あるいはその可能性があるので、MEVの中では最も悪質とされています。
PoWのブロックチェーンは、ブロックの再編成が高頻繁に行われるため、このMEVは見つかりやすいとされています。またTendermintやPoS Ethereumでは、このようなMEVの発生は大きく減少するとされています。
4.MEVの歴史・現状
以下の記事を読むことで、MEVの歴史はキャッチアップすることができます。
https://medium.com/@Prestwich/mev-c417d9a5eb3d
MEVの歴史
2014
2008年のPmcgoohan氏は、イーサリアムと従来の金融市場の代わりにプログラム可能なブロックチェーンを使用するアイデアに魅了される
RedditユーザーのPmcgoohan氏は当初、イーサリアムが発売される1年前の2014年に、イーサリアムのGenesis以前のドラフト文書からMEV問題を見つける
2019
Philip Daian氏, Steven Goldfeder氏,Tyler Kell氏, Yunqi Li氏, Xueyuan Zhao氏, Iddo Bentov氏, Lorenz Breidenbach氏, Ari Juels氏は「Flash Boys 2.0」という研究論文を発表
ここで初めてMEVという言葉が使われ、問題が説明される
2020
Georgios Konstantopoulos氏とDan Robinson氏は2020年8月8日に「Ethereum is a Dark Forest」を、Samczsun氏は同年9月24日に「Escaping the Dark Forest」を出版し、MEV問題を解説する
クリプト経済学の中核用語としてMEVを紹介し、イーサリアムが現在直面している最も困難な課題の1つとして意義を強調される
2021
MEVの抽出は、イーサリアムの枠を超えた10億ドル超の産業として拡大
2022年
イーサリアムのコンセンサス・アルゴリズムがPoWからPoSに変わる
FlashbotsのMEV-Boostが主流となる
MEVの歴史です。ちなみにイーサリアムのMEVを悪用していたのは、基本的にDEX上で動くアービトラージボットです。実際、アービトラージ(サンドイッチ攻撃を含む)はイーサリアム上で抽出された総MEVの99.46%を占め、その大部分はUniswap V2取引所で発生しています(64%)。
MEVには有益な側面もあります。先程にも触れましたが、例えば、DEX間でアービトラージして価格を整えたり、貸し手が確実に返済されるようにローンを清算したりなど。これらは有益な部類に含まれます。
しかし、MEVには負の外部性も存在します。
取引の悪化:フロントランの際に高い価格で購入するため、ユーザーは通常よりも大きなスリッページに直面することになる
ガス代高騰:サーチャーがブロックスペースを独占し、次のブロックに含ませる確率を高めるためガス代を上げるので、ユーザーのガス代は上がる
複数要素の欠損:Mempoolは中立性、透明性、パーミッションレスではない
タイムバンディット攻撃:MEVの中で最も悪質な攻撃。ネットワークの安定性を損なう可能性がある
MEVの負の外部性を緩和しようとする企業やプロジェクトはたくさんありますが、その中で最も有力なのがFlashbotsです。MEVを民主化し、再分配しようとする研究・開発組織です。先程のMev-boostもその例です。
Flashbotsは良質なコンテンツをだしているので、そちらを追うことでMEVに関して詳しくなれます。私が個人的に読んでいる媒体のリンクを貼っておきます。
コミュニティ議論:https://collective.flashbots.net/
MEVの問題
MEV-Boostは、これまで提案者とビルダーの役割を分けましたが、エコシステムの中央集権化は、今後も継続して大きな課題となり続けると思います。
現状では、主に以下の2つです。
ビルダーの集中化
リレーの集中化と検閲
バリデーターの中央集権化に関しては「提案者・ビルダー分離(PBS)前」で述べたとおり、Mev-boostと中央集権化に相関はありませんでした。
ビルダーの集中化
ビルダーの集中化は、PoW時のマイナーの集中化よりは害が少ないが、それでも理想的とは言えません。上の画像の通り、一部のビルダーが大きなシェアを握っている状態にあります。
またビルダーは、Public Mempook以外にもFlashbots Protectといった特定のRPCを使用し独自でオーダフローを集め、ブロック構築をしています。
これをプライベートオーダーフローといい、頭文字を取ってPOFと呼びます。
POFを集めるためにはRPCエンドポイントを利用する必要があり、これはユーザーにとって様々なメリットを得ることに繋がり、基本的にユーザー体験を向上させます。
プライバシーの確保
フロントランニング / サンドウィッチ攻撃を防ぐ
TXのシミュレーション
素晴らしい機能ですが、ほとんどのユーザーはこれらの存在を知りません。その理由としては知識不足が大きいでしょう。MEVをそもそも知らないパターンと、その解決策があることを知らないパターンです。もし皆さんがメタマスクに「Flashbots Protection」のRPCを追加する場合、2分もあれば追加できるでしょう。
設定→ネットワーク→ネットワークの追加で、新しい「ネットワーク」に「Ethereum(Custom RPC)」という名前を付け、使用するRPCエンドポイントを追加し、chainIDは1、通貨はETHとします。
しかし、多くの人はそもそもこの情報を知らないため、自分の注文を守ることができません。では、これはどうすれば解決できるのか。
ウォレットプロバイダーであるMetamaskが、デフォルト設定をプライベートRPCに変更すればいいのです。すると、メタマスクは「どこに自分たちのOFを流すのか」を選択することができ、OFの行き先はビルダーです。
基本的に、MEVのサプライチェーンは競争環境にあるため、このようなメタマスクからのPOFには高い価値が付きます。なぜなら、メタマスクはイーサリアムの取引の最大70%がメタマスクを介しているという調査もあり、価値のあるOFを大量に握っている可能性が高いからです。
もしメタマスクのPOFにアクセスできるなら、ビルダーはいくら払ってもいいと考えるはずです。あるいは、メタマスクが独自のビルダーを構築する選択をした場合、イーサリアムのサプライチェーンはメタマスクに支配されてしまいます。
メタマスクがPOFを販売する場合は1つまたは複数のビルダーに対して独占的にオーダーフローを提供する契約を結ぶことが挙げられます。
メタマスクが独自のビルダーを構築する場合も、自分たちのオーダーフローを独占的に利用するでしょう。
このように単一のビルダーがメタマスクから送信されるイーサリアムのOFの大部分に独占的にアクセスできるようになると競争に勝ちやすくなり、ブロックの大部分を構築することができるようになります。そして、こういった価値の高いPOFにアクセスできないブロックビルダーは、徐々に廃れていきます。
このようにビルダーが独占的なオーダーフローを競い合う世界線では、勝者総取りの世界になってしまう可能性が高く、これはつまりメタマスクのような特定の大きなプロバイダーが、ウォレット、サーチャー、ビルダー市場を支配してしまう可能性を示しているのです。このようなオーバーフローを「排他的なプライベート・オーダーフロー」といいEOFと呼びます。
Jon氏はEOFとビルダーの中央集権化を引き起こすスパイラルを上のツイートでまとめています。
このビルダーの一元化を防ぐための解決策としては、検閲抵抗リスト(crLists)か、分散型ブロックビルディング(SUAVEや)の2つのアプローチが行われています。
またビルダーの一元化を引き起こす要因としてクロスドメインMEVも挙げられますが、こちらの概要は今回は省きます。
リレーの集中化と検閲
次にリレーの集中化です。上はリレーのシェアを定量化したものです。現状主に4つのリレーがシェアを握っていることがわかります。一時期はFlashbotsリレーが8割以上の割合を占めていた時期もありました。
Merge直後は、Flashbotsリレーに依存しているため、規制に対して弱く、Bloxrouteの「Regulated」リレーなどの他の検閲リレーに加え、ユーザートランザクションを検閲するブロックの割合は70%と言われています。
Bloxrouteの「Regulated」はOFACの制裁に準拠していて、これはTornado Cashの取引を検閲していることを指します。
リレーの集中化は検閲の側面から良くなくて、Flashbots以外のリレーがシェアを取り、多様性があることが理想です。
Flashbotsの対応としては、
リレーをそれぞれオープンソース化することで参入障壁を下げ、リレーを多様性にして集中化リスクを低げるという試みです。実際、Flashbotsビルダーの市場シェアは9月の〜80%から12月の〜25%に低下しています。
しかし、イーサリアムのコア開発者とFlashbotsチームは、リレーの多様化が改善されない場合でも、MEVのサプライチェーンからリレーを完全に削除する計画があるため、リレー検閲を短期的な問題と捉えています。 MEV-Boostに影響を与えたPBSの完全なビジョンは、リレーの役割をEthereumのプロトコルに明記するものです。
MEVの未来
短期的には、ビルダーとバリデーターはできるだけ多くの信頼できるリレーに接続することができるようになる。
中期的には、PBSが定着することでリレーは存在しなくなる。PBSはイーサリアムのプロトコルに直接組み込まれることになり、バリデーターはcrList(検閲抵抗リスト)を追加して、ビルダーからトランザクションを強制的に取り込むことができるようになる。ただ検閲のリスクは100%排除されるわけではなく、特にビルダーの寡占化が進んだ場合には注意が必要
長期的には、多くのビルダーが存在するだけでなく、ビルダーが共同作業を行い、それぞれが部分的なブロックを構築して1つにまとめる、真の分散型ビルダーネットワークが実現(例:SUAVE)
今回は上の中でも、短期的なMEVに関する概要をまとめてみました。
私自身、MEVの未来は「SUAVE」にあると思っています。気になる方はFlashbotsの「The Future of MEV is SUAVE」を御覧ください。
また今回はEthereumのMEVの話がメインでしたが、MEVとはEthereum以外にも存在するものです。本記事での詳細は省きますが、
レイヤー2のMEV(シーケンサの分散化)
AppChain MEV
クロスチェーンMEV
クロスドメインMEV
インターチェーンMEV
などなど、色々な種類のMEVがあります。個人的に上のすべてが今後発展していくと思うので継続的にウォッチしていきます。
まとめ
本記事は私が密かに運営するブロックチェーンソース共有コミュニティにて、メンバーに事前に読んで頂きフィードバックを頂きました。特にyupiさんには沢山のフィードバックを頂きありがとうございました。
本レポートでは、イーサリアムの設計において鍵となる要素であるMEV及びPBSの概要でした。
冒頭でも述べましたが、これは日本で語られることは少ないですが、重要な要素です。本レポートは、あくまできっかけを作ることが目的なので、より深く議論に参加したり、キャッチアップしたい方はグローバルをみましょう。
https://vividot-de.fi/entry/Flashbots-Foundation-One
https://collective.flashbots.net/t/how-are-relays-defined-in-pos-ethereum/148?u=brock
https://writings.flashbots.net/the-future-of-mev-is-suave/
https://www.gsr.io/reports/cotw-the-battle-of-the-bots-and-maximal-extractable-value/
https://etherworld.co/2022/04/05/mev-research-report/
https://flashbots.mirror.xyz/bqCakwfQZkMsq63b50vib-nibo5eKai0QuK7m-Dsxp
https://newsletter.banklesshq.com/p/ethereum-censored-flashbots-centralization-lidoo
https://rileygmi.substack.com/p/what-is-mev-a-simple-guide
https://mirror.xyz/msfew.eth/exHDL1Rn32SSFT1_mnMyNgoC7hXmB3LlcYMFiW6KtRE
https://simbro.medium.com/mev-driven-centralization-in-ethereum-part-2-97e4cb612e69
https://stonecoldpat.substack.com/p/mev-boost
https://banklessdao.substack.com/p/the-mev-edition-part-i-defi-download
http://xn--https-543d//maven11.substack.com/p/modular-mev-part-1the-introduction?utm_source=%2Finbox&utm_medium=reader2
https://members.delphidigital.io/reports/the-year-ahead-for-infrastructure#ethereum-mev-post-merge
https://pseudotheos.mirror.xyz/i7sv9SFb1e64W2ax_kYwp68O0M2NdACtOu9Hj12SPP8
https://noxx.substack.com/p/order-flows-kingmaker-of-the-block
https://www.galaxy.com/research/whitepapers/mev-the-rise-of-the-builders/