ブロックチェーンは儲からない
twitterでたくさんの反応をいただきました。ありがとうございます。
こんにちは、最近はリアルイベント系のツイートばかりが流れてきて、リアルでの交流が結局1番なんだなと感じているvitaです。
さて、話は変わりますが、ブロックチェーン業界にいると、必ずといっていいほどよく受ける質問があります。それが「ブロックチェーンって儲かるの?」です。
最近は、いわゆる日本の大企業がこぞってブロックチェーン領域に興味を示し初めていて、特に「非クリプトネイティブ」と言われる層から質問されるイメージがあります。
特にいわゆるweb2サービスの開発をしていた人からは「web3ってマネタイズできるの?」という質問もよくありますね。そこでどう使うかというよりもより低レイヤーに位置するブロックチェーン自体に収益性があるのかどうかに疑問を抱きはじめました。
この質問、どのような答えになるのでしょうか。
上のツイートでは、ブロックチェーンの目的やビジネスモデルが簡易的に記載されています。ただこのスレッドだけで理解が深まる人は少ないと思います。
また中には「ブロックスペースは儲からない」ことを主張する記事もあります。
基本は「The first profitable blockchain」を翻訳・解説しながら、
ブロックチェーンは何を売っているのか?
ブロックチェーンは儲かるのか?
といった目標を、本記事を読んだ読者が達成できるよう解説を入れていきます。なお、専門用語は説明ページを中心に張っています。わからない単語はその都度確認しながら読み進めて頂ければ幸いです。
1.ブロックチェーンのビジネスモデル
ブロックチェーンのビジネスモデルを見る前に、まずは既存金融の流れから見ていきましょう。
例えば、Visaのネットワークは、何十億もの経済をつなぐ「金融システムのレール」として機能しています。これら既存金融の問題点は、政治的な意味で安全ではないことです。なぜなら、これら中央集権的な機関は「決済レイヤー」を提供していますが、結局は政府であれ企業であれ、中央集権的な機関によってコントロールされています。
ここでブロックチェーンです。ブロックチェーンは、中立的な代替手段を提供します。分散化によって中立性を保ちながら、価値の「安全な決済層」として機能。具体的には、各ブロックで「有限の取引」を決済できるブロックを一定の間隔でユーザーに販売します。
Bitcoin:10分ごとに1MB分の取引を収めることができるブロックを販売
Ethereum:約80KBのトランザクションを収めることができるブロックを15秒ごとに販売
ブロックは取引を処理しユーザーの経済活動を促進。これには金銭の送受信、トークンの交換、ローンの利用、デジタルアイテムの収集、その他プログラムできる価値のあるものが含まれます。
ちなみに「ブロックチェーンは誰にとってのビジネスなのか?」と思う方もいるかもしれません。その答えは、以下のツイートで記されています。
簡単に要約すると、3つのスケール段階によって異なるとのことです。
1:個人がブロックスペースを購入
2:アプリケーションがブロックスペースを購入
3:チェーンがブロックスペースを購入
イーサリアムのようなチェーンは、3への道を歩んでいますが、ほとんどのチェーンはそこに到達することはないと主張されています。
ビジネス視点で見ると、ブロックチェーンの製品はブロックスペースです。つまりブロックスペースの価値を高め、それを通じて収益を上げることが目的です。
では、何がブロックスペースへの価値を高めるかというと、それが「セキュリティ」になります。
セキュリティが弱いブロックチェーンは、悪意あるノードや攻撃する主体によって取引が改ざんされたり、検閲されたりする可能性があるわけです。なので、毎日数百億円規模の処理を行う場合、セキュリティの低いネットワークでは価値ある決済レイヤーとして成立しないのです。
ブロックチェーンの安全性が高ければ高いほど、ユーザーは取引に「高い信頼」を持つようになり、ブロックスペースの需要が高まります。ブロックチェーンが世界的な決済レイヤーになるためには、安全で信頼できるブロックチェーンになることが大切です。
しかし、その安全性を確保するためには、ブロックチェーンは代償を払う必要があります。具体的にはトークン発行を通して、インセンティブをネットワークの貢献者に対して与えます。
つまり、ブロックチェーンはセキュリティの維持が主要なコストとなるわけです。
ここまで来ると、ブロックチェーンのビジネスモデルを導き出すことができます。ブロックチェーンは取引手数料から収益を得る一方、セキュリティを維持したまま発行するために利用されます。式にしてみると、以下です。
純利益 = 取引手数料 - 発行手数料
ブロックチェーンの”セキュリティにかける金額”と”取引手数料によって入ってくる収益額”を比較することで「成功しているブロックチェーンビジネス」を分析することができます。逆に、ブロックチェーンがもたらす収益よりもセキュリティに支払っている額が多ければ、赤字になっていることになります。
黒字:セキュリティコスト < 取引手数料
赤字:取引手数料 < セキュリティコスト
※ 詳しく知りたい方は以下ツイートをご覧ください。
投資家としてできることは、最も収益性の高いブロックチェーンを見つけ、そこに投資することです。良質なブロックチェーンは人々が喜んでお金を払うとともに、ブロックを高い価格で販売します。つまり、決済レイヤーとして市場に早く溶け込み、よりよい販売実績を作り上げることができるわけです。
例えば、人々はiPhoneが他よりも優れていると信じるからこそ、高いお金を支払ってiPhoneを購入します。
ブロックチェーンも同じです。ユーザーはブロックが最高の商品(安全な経済機会)を提供する限り、高い取引手数料を支払ってでもそのブロックを利用しようとします。
では、ブロックチェーンにおけるAppleはどこなのでしょうか。この質問が次章の「儲かるブロックチェーンはあるのか?」に繋がります。
2.儲かるブロックチェーンはあるのか
結論、現在利益を上げているブロックチェーンはありません。
主要なブロックチェーンはどれも現在、取引手数料で稼ぐ以上に発行手数料を支払っています。つまり、持続不可能なビジネスを展開していることになります。
詳しくは、以下のグラフをご覧ください。
どのチェーンも入ってくる手数料より、出ていくコストのほうが多いことに気づくはずです。
Ethereumを例を見てみましょう。Ethereumは毎日約$13Mの取引手数料が入ってきていて、上の指標では1番価値あるブロックチェーンとなっています。しかし、その裏側にはブロックを生成するために、ネットワークは1日あたり36MドルのETHを発行してマイナーに分配していることがわかります。つまり、Ethereumは-64%で損失運用されているのです。
他の例で考えてみましょう。例えば、最も黒字に近いブロックチェーンはBinance Smart Chain(BSC)で、発行額が174万ドルに対して、1日140万ドルの手数料を稼いでいます。データだけを見れば、これはすごいことだと思う人も多いはずです。
しかし実際、Binanceのようなチェーンは他チェーンとは比較対象にならないんですね。なぜなら、ブロックスペースが価値を持つのは、取引決済が安全に行える場合でした。そして、その安全性を担保するためにお金がかかります。
ここでBSCを見てみると、BSCは21人のバリデーターによって保護されています。これは非常に閉鎖的でパーミッションレスではありません。 言い換えると、他チェーンに比べてBSCチェーンは中央集権的であり「セキュリティ費用」を負担していないので、利益を上げやすいと言えます。なぜなら、21人のバリデーターがどの取引も簡単に無効化できるからです。
もしBSCがBitcoinやEthereumのような分散型モデルと取っていたとしたら、そのコストは確実に高くなります。例えば、Bitcoinは100万人のマイナーによる毎日の発行に3,475万ドルを費やしていて、Ethereumはビーコンチェーンを保護する27万人のバリデーターに3,600万ドルを費やしています。(マージ前)
また、BSCがウォッシュトレードやスパム取引にされているという報告があったことも記載しておきます。もちろん、これらの主張にも反論があり、本当かどうかを判断するのは非常に難しいです。詳しく知りたい人は、以下ツイートをご覧ください。
話を戻すと、EthereumとBSC以外のL1では、約90%もしくはそれ以上の損失を出しながら運用されています。
ちなみに、L1はトレードオフの関係が強いです。
例えば、AvalancheやSolana上の取引は、BitcoinやEthereumに比べて安いですが、費用を上回るほどの収益を上げていません。このように費用と収益を比較することで、新しい発見が得られると思います。
ここで少し質問を変えます。ブロックに対する需要はどの程度あるのでしょうか?
いきなり答えを書いても面白くないので、まずは質問の肝である、ブロックに対する需要の評価方法をご紹介します。一緒に考えてみましょう。
ブロックチェーンの需要はどのように評価するのかというと、製品販売による収入によって評価します。つまり、収益こそがブロックスペースの需要を表します。よく勘違いされますが、ブロックの販売数とかではありません。
再び現実を見ると、収益性の高いブロックチェーンビジネスを構築することは難しいことがわかります。
価値の高いブロックを持つEthereumでさえ 、収益性を維持できずにいる現状です。どれだけブロックチェーンビジネスで利益を出すのが難しいかがわかります。Bitcoinに関してはさらに悪く、他のL1と同程度になっています。
3.なぜ、ブロックチェーンは赤字でも大丈夫なのか
なぜ、赤字で運用されているブロックチェーンは破綻しないのでしょうか。
結論として、ブロックチェーンがどの段階にあるのかを知ることが鍵となります。ブロックチェーンは技術として初期の段階にあり、マスアダプションしておらず、技術自体もまだまだ最適化の余地があるため、今すぐには利益を生まないのは当然のこと。つまり、まだ起動段階なんですね。
これは昨日開催されたイベント「クリプト輪読会」にて、Linさんが発表されていた内容の一部です。素晴らしい内容だったとともに「ブロックスペースは黎明期、技術革新および使用用途は未知数。今なにができるかより、進化可能性こそが重要」という一文に強く共感しました。
これは90年代のインターネット企業とよく似ています。例えば、Amazonは1994年に設立されましたが、黒字になったのは2001年。10億ドルの売上から500万ドルの利益を計上したときでした。
今や数兆円企業となった同社が黒字化するまでに7年の年月がかかっています。ちなみにBitcoinは12年、Ethereumは7周年を迎えます。ブロックチェーンは、そんなインターネット史における2000年に近い印象です。
読者の中には「ブロックチェーンはAmazonと同じ時間枠で収益性を達成できるの?」という疑問を抱く方がいると思います。詳しく見ていきましょう。
収益性を向上させる道のり
では、ブロックチェーンが利益を生むようになるには、どのようなロードマップがあるのでしょうか。
大きく以下の2つがあります。
トランザクション収益の増加
セキュリティコストの削減
1.トランザクション収益の増加
ブロックチェーンが収入を増やす主な方法は、ブロックの効用を高めること。つまり、各ブロック内でできることの価値を高めることです。では具体的にどうするのかというと、ネットワーク上に価値あるアプリケーションを構築し、できることを増やします。するとユーザーが得られる効用を増やすことができるのです。エコシステムの発展などと称されることがよくあります。
例えば、Ethereumでは、世界中の誰もがUniswapで1MドルのETHと1MドルのDAIを交換することができます。これはユーザーにとっては大きな価値になり、その取引を決済するために喜んで手数料を支払うはずです。ストレスやボラティリティの高い時期には「1万ドル払ってでも自分の取引を即座に処理したい…」と思う人もいるかもしれまん。合理的なユーザーは良質なブロックに対して、少し多めに手数料を払うことをためらいません。
アプリケーション(DeFi、NFTなど)がブロック内に経済的機会を生み出すため、この層が活発になるとブロックの価値が高まります。またブロックスペースの収益は、ネットワーク上の価値あるアプリケーションの数と、それらが作る機会に相関しています。
Bitcoinを例に見てみましょう。Bitcoinは事実上、BTCを動かすという1つの使い道しか持っていません。なので、利益率が-98%であることからもわかるように、大きな収益を上げることに苦労しています。
つまり、1つのユースケースで生み出せる収益は限られているのです。
しかしスマートコントラクトを使うと、構築できるアプリケーションの幅が広がり、1つの機能に特化したブロックチェーンよりも、ブロックスペースの収益を上げることができます。
Ethereumを含むいくつかのスマートコントラクトプラットフォームが、手数料収入でビットコインを上回り、現在以下のようになっています。
つまり市場はBitcoinを動かすよりも、Ethereumでトークン交換するためにお金を払う需要のほうが大きいことがわかります。
ここで重要なのは、ブロックスペースの収益は「そのブロックスペースの有用性」に伴って増加するということです。またブロックスペースの効用は、トークンやアプリケーションの増加。つまり活発なエコシステムによって拡大します。
収益:ブロックスペースの有効性
効用:トークンやアプリの増加
両者に共通するのは「ネットワークが分散化され安全であること」が条件であることです。
重複しますが、取引を改ざんしたり検閲したりできるのであれば、ブロックスペースの価値は少なく、ネットワークに長期的に貢献するアプリケーションは少なくなります。
2.セキュリティコストの減少
ブロックスペースのユーティリティを高めるためには、たくさんの要素が結びつき全体を形作る必要があります。その要素の中には、開発者、アプリケーション、ユーザーが含まれていて、どれも必須要素です。
ブロックチェーンの持続可能性への道は、時間の経過とともに発行量を減らし、ネットワークの維持にかかるセキュリティコストを下げることが大切です。
発行枚数を減らす大きな意味は、セキュリティコストが減ることです。ただそのリスクとしては、価格が上がらない限り、発行枚数が減るたびにバリデーターやマイナーが運用を続けるインセンティブが少なくなり、ネットワークの安全性、俗にゆう分散性もが低くなる可能性があることです。決まって起こるわけではありませんが、ネットワークの需要がつり合わない時に発生するというリスクを持っています。
またブロックチェーンが取り組むべき「発行とブロックサイズの間」のトレードオフもあります。多くのL1は、トランザクションあたりの手数料を抑えながら、高いブロックサイズやブロックを選んでいます。なぜなら、より多くの総取引をサポートし、スケーラビリティを向上させるためです。その結果、ブロックスペースの供給量を増やすと価格が下がってしまい、今のところ大きな収益を得るのは難しくなっています。
要するにブロックチェーンは、生成するブロックスペースの供給とそれに伴う発行のバランスをとる必要があります。ブロックタイムが速く、大きい(基本的にスループットが大きい) ブロックは、この規模のセキュリティを実現するために、より多くの通貨を発行しなければなりません。
つまりより大きいスケールを求めるなら、より大きいセキュリティコストを支払う必要があるということです。
レイヤー2に関する簡単な補足
ブロックチェーンが純利益を上げるためには、レイヤー2(L2)が重要な役割を担います。
L2がわからない人は上動画をご欄ください。日本語情報で最もわかりやすい教材のひとつだと思います。
CryptoFees.infoを見ると、EthereumのL2がブロックスペースの売上で毎日$50k-100kの収益を生み出していることがわかるはずです。
ここで大切なのは、L2がEthereumのL1ブロックスペースに対する需要を自ら生み出していることです。Arbitrum、Optimismは 、UltraSound.MoneyのETH Burn Leaderboardをご欄ください。
L2のポイントは、セキュリティのためにトークン発行する必要がないことです。なぜなら、決済先であるL1からセキュリティを引き継げるからです。なのでブロックチェーンの持続可能性に関する多くの難しいポイントが、L1のリソースを活用することで解決できるため、L2の展開は簡単です。
L2はユーザーに低い料金を提供し、ユーザーのトランザクションをまとめてL1に返します。
L2を使うことがL1ブロックスペースの需要につながり、L2エコシステムが活発であればL1に有利に働くのです。
Ethereumのスケーラビリティ・ロードマップの強い事例は 、ブロックスペースをユーザーではなく他のブロックチェーン(L2)に販売していることです。個人ユーザーはEthereumの手数料に苦痛を感じていますが、L2ブロックチェーンはL1のガス料金に影響されず、より多くのユーザーを取り込むことでブロックスペースを消費していくことになります。
4.利益を生むブロックチェーンの登場
今年の9月15日に、EthereumがThe Mergeによって、PoWからProof of Stakeに移行し、その発行量が削減しました。この面白いポイントは、発行量の削減だけではないことです。
高いセキュリティ効率を利用しながら、セキュリティ予算の使い方にも変化があります。コンセンサスアルゴリズムのシフトとそれが持つ改善を考えると、PoSはEthereumをより安全にすると同時に、ネットワークが発行を減らすることができます。
ネットワークの発行枚数が削減されたことで、Ethereumは1日あたり四百万ドル以下のETHをステーカーに分配することになります。重要なのは、ETHの手数料はThe Mergeで変わらないということです。
つまり、ネットワークが1日あたり4Mの発行額を分配する一方、13Mの収益を上げ、 9Mの純利益と+72%の利益率を生み出すことになるのです。
またETHはMergeとへの完全移行により 、ネットワークから発生する取引手数料はすべて、EIP1559とステーキングを通じて、ETH保有者に還元されることになります。
その結果、ETHのステーキング利回りは2桁のAPYに跳ね上がり、投資家はその利回りを受け取ろうとします。これはETHに対する需要を高めることになり、またネットワークはステークの増加によって安全になるわけです。
Ethereumは、初めて利益を生むブロックチェーンになろうとしています。他のチェーンはEthereumを追えるのでしょうか?それは販売する製品の品質に大きく依存します。
市場はいくらでブロックを買ってくれるのか?
取引手数料が上がっても買ってくれるのか?
セキュリティコストのないL2に対して、L1はどのように戦うのか?
これから数カ月、数年後に分かることです。ただ一言いえるのは、長い目で見れば、儲かるものだけが生き残るということです。
総論
今回は低レイヤーに位置するブロックチェーン自体に収益性についてまとめてみました。いかがだったでしょうか。最後にサマリーです。
「ブロックチェーンって儲かるの?」の答えは、Yes。儲かります。例えば、Ethereumは1日で約5億円の取引手数料を稼いでいます。
ただビジネス視点で見ると、ブロックチェーンの製品はブロックスペースであり、ブロックスペースの価値を高め、それを通じて収益を上げることが目的です。
またセキュリティがブロックスペースの価値を高めるので、どのチェーンもそこにコストを割いています。これらを考慮した上で「ブロックチェーンって儲かるの?」と問うと、その答えはNo。赤字で運用されているチェーンがほとんどの現状です。
今回は以上となります。
ご連絡
本記事は ta1suke, malion にファクトチェックして頂いています。
本メルマガでは主にブロックチェーンに関する記事を書いてます。Substackには登録機能があり、登録して頂けるとツイッターで告知するより早く記事を読むことができます。また購読者限定で限定イベントや特典告知もさせていただくので、ご興味ある方はどうぞ。
引用元
The first profitable blockchain
※ 引用元は4月に公開された記事です。データや扱っている数値が現在とは異なる可能性がありますが、ご了承ください。